アトリエふくろう
月に一度ほど、「アトリエふくろう」にて絵を描いている。アトリエふくろうは、ビジネスホテルである。ホテルの名前の由来がふくろうの学名であるので、自分はそのように呼んでいる。アトリエふくろうは、一泊約一万円。一人で泊まるには割高であるが、良い環境で絵を描くためなので、仕方がない。もう少し安いプランもあるにはあるのだが、一万円のプランなら、十四時チェックイン、翌二十時チェックアウトで、最大三十時間滞在できる。これは嬉しい。
私が絵を描く時の流れは、だいたい次のとおりである。モチーフを決めたら、まずは資料写真を撮りに行く。早番の日の仕事上がりや公休日が多いが、午後番の日の出勤前の時間を利用することもある。そうして数十枚、時には百枚以上に及ぶ画像の中から「これは」というものを数枚選び、それらを参考にしながら、後日アトリエふくろうにこもって制作をするのである。十四時にチェックインしたら、部屋に荷物を置き、まずは画材店へ。画材店は、見ているだけで楽しく、油断するとついつい何時間も滞在してしまう。誘惑を断ち切り、必要な材料だけを買い、再びアトリエふくろうへ。スケッチブックに鉛筆と水性マーカーで「下描きの下描き」を描き、全体のイメージを決める。イメージが固まってきたら、二度目の下描きに取り掛かる。二度目の下描きは、鉛筆で詳細に。そのスケッチを描き終えたところで夕食となる。この時点でだいたい午前0時。宿泊費で一万円が飛んでいるため、夕食はたいていカップ麺である。空腹を満たしたら、二度目の下描きに色をつけていく。しばらくは集中しているが、五時頃になると睡魔に負け、三時間程度仮眠をするのが常である。そして八時に朝食。夕食なし朝食つきのプランなので、朝はカップ麺ではない。単なるスクランブルエッグとトーストなのに、ホテルで食べる朝食の、何と美味しいことか。再び集中。正午には、完成形に近いものが出来上がる。みたび部屋を出て、昼食をとる。昼食は「さくら水産」の五百円ランチである。部屋に戻り、色合いなどの最後の微調整。かくして、一枚の絵が完成となる。完成した時点で、一階のカフェにてロイヤルミルクティーを飲むのが、私の定番。アトリエふくろうには、宿泊者向けのウエルカムドリンク一杯無料のサービスがあるのだ。カフェに寄るのは十七時頃になるのがほとんどで、チェックアウトが近いのにウエルカムドリンクというのも変な話だが、作品が完成した後にカフェに寄るのが、自分自身をねぎらう「気分」に合っているのである。
カフェに寄った後は部屋で風呂に入り、チェックアウトまで睡眠をとる。作品が完成し、あとはただ休むだけという、この時間の幸せ感は相当なものである。まさにカタルシス。かくして、十四時から翌二十時までの三十時間の間に仕上げた一枚の絵を手に、私はアトリエふくろうを後にするのだ。
趣味の絵を描くためにホテルに泊まるというのは、ある意味無駄なことなのかもしれない。しかし自分にとっては生きがいであり、アトリエふくろうに通う習慣は当分やめられそうにない。
(某職員向け小冊子に掲載 2011年11月)
※筆者はバス運転手の職務をこなしつつ、休日に絵や文章を書いている。
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