魅知と桜と都営バス
昨年秋、バス愛好家団体「日本バス友の会」東北支部の主催による震災復興ツアーに参加してきた。震災で大きな被害を受けた宮城県のバス会社の売り上げに微力ながら貢献しつつ、震災当日の状況についてのお話を伺い、地域の復興の担い手としてのバスについて考えを深めるという内容であった。
仙台駅を出発した貸し切りバスは、市内にある営業所の車庫に到着。そこには、我々が見慣れたアイボリーと緑色の「ナックルライン」と呼ばれる旧カラーのツーステップバスがあった。2011年度に除籍の予定だった都営バス62台を被災地のバス会社に無償譲渡することが決まったという話題は記憶に新しいが、実際の車両を間近で見ると実感が湧く。
同社では原則として、譲渡された車両を自社の配色に塗り替えるとのことなので、私が見たのは東京から到着したばかりの車両とみられる。あれから数カ月、今頃転校生は新しい制服にも慣れ、宮城県内を元気に走っていることだろう。
石巻市内のバス会社では、従業員の方々の貴重な話を聞くことができた。同社では人的被害はなく、地震直後にバスを高台に移動したため、バスへの被害も少なかった。当日、女川町で乗務していた運転手はバスごと高台に避難したが、逃げまどう船が一瞬にして津波にさらわれた現実を目にし、衝撃を受けたという。
水と食料が不足し、1週間風呂にも入れず、それでも「道路があるのだから車を走らせなければ」という使命感から同僚とともに会社に泊まり込み、バスの運行を守った。そうするより他にない状況だったのかもしれないが、何とも頼もしく、すてきな話だと思った。
都営バスつながりで、2月には個人的に岩手県釜石市のバス会社を訪問した。同社にはナックルラインに黄色が加わった現行カラーの都営バスが譲渡されたと聞いており、しかも都営時代の配色を保ったまま運用に就いているとのこと。
しかし、入るべき路線の停留所には、待てども来ない。それもそのはず。後で分かったことだが、このバスは車高が低いため雪道に弱く、冬季は休ませていたのだった。営業所のご厚意で車庫に冬眠する元都営バスを見せてもらった。何だか「桜の季節に乗りに来てよ」と彼に言われているような気がして、今回のイラストの案が浮かんだ。
場所は、釜石市の桜の名所、本郷桜並木。約80年前、三陸大津波の復興への思いと現天皇陛下のご生誕に合わせて植樹されたソメイヨシノである。この800メートルにわたる桜並木を駆け抜けるバス路線は実在しないのだが、東北の桜と元都営バスをどうしても描きたくて、想像を加えて描いてみた。
間もなく、東北にも遅い春がやってくる。折しも、復興を目指し東北6県全域を博覧会会場と見立てた東北観光博が、来年3月末までの会期で始まっている。東北地方、みちのくを「魅知の国」と表現することがあるが、知れば知るほど魅力的な東北地方への旅。旅先でふと乗車したそのバスは、ひょっとすると元都営バスかも知れない。
最後に余談。このイラスト、「春」の字に見えてきませんか?四角い車体が「日」の部分。ふわりと桜がかぶさって……季節の漢字の出来上がり。
※都政新報(2012年4月3日号) 都政新報社の許可を得て転載
新聞にはモノクロで掲載されましたが、原画はカラーです。原画はこちら。
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